西の部屋

南の窓と西の部屋へのふすま
▲掃き出し窓に注目。調度は参考品。


 一階の西の端の六畳の日本間は一畳半の縁側がついていて、食堂の西側扉に通じている。
 食堂から廊下側のふす間をあけてこの部屋に入ると、昼でも薄暗く、ひえびえしている。
 それは作品にあるように、南に面していながら庇が深く、陽が縁側を経、障子を経てしか室内に入らないからである。
 三姉妹は、この部屋に夏の間涼を求めに来るのであるが、作品中巻二十九章には雪子が妙子に爪を剪ってもらう場面が描かれている。
 その一枚の絵のようなシーンは読者に強烈な印象を与える。
 雪子と妙子と―――この対照的な二人の女性は、その対照性ゆえに「細雪」という織物の中の二色の縦の糸で、寄ったり離れたりからまったりしながら、見事な模様を描いていくのである。
 この章の妙子は、恋人板倉との結婚のことで二人の姉と考えが対立して一人孤立している状況にある。
 そんな中にあっても仲むつまじく妹が姉の足の爪を剪ってやるのを見て貞之介の、「この姉妹たちは、意見の相違は相違としてめったに仲違いなどはしないのだと云うことを、改めて教えられた気がした。」という感慨の描写が続く。
 かかる意味で西の部屋は、作りの上からも、先の洋間の「陽」と対照的な「陰」あるいは「淫」なる空間なのである。



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